DX化を推進する広島県の公共職業訓練:市民開発者養成科を修了した元訓練生5名の声

市民開発者養成科を検討中の皆さまへ

過去、筆者がビットゼミの「市民開発者養成科」という公共職業訓練を受講するにあたって、市民開発(者)と一般的なプログラミング(開発)にはどんな違いがあるのかに関して、ちょっとした猜疑心を抱いていました。

第一印象としては「お手軽開発」程度のもので、ポジティブな側面としては「誰でもアプリ開発できる」という技術の進歩やエンジニアの努力に感動しましたし、その一方で、その耳触りの良い謳い文句に対して「これで転職(=業種転向)に成功するほどのスキルを得られるのか」というネガティブな気持ちを同時に抱いたことを覚えています。

株式会社ビットゼミより

結論から述べると「迷っているなら受講せよ」というのが素直な感想です。その理由は、多種多様な業界において「開発もできる業務のプロ」の需要が高まっているからというのもあるのですが、そういった勉強は1人でもできる一方で、誰かと一緒に学ぶことでしか得られないものがあるからです。

市民開発者としてのスキルアップは、主に以下のような利点があるといえます。

  • 単純に1人あたりの業務負担が軽減される
  • 開発にかかる費用や時間(工程)を大幅に減らせる
  • ユーザーとベンダー間におけるコミュニケーションの齟齬が解消される 1
  • 開発者が特定の業務内容にも詳しければ、より効率的なアプリを開発できる
  • 本当に(自動化が)必要な業務か否かを判断する能力を養える

など

「開発のプロ」と「業務のプロ」との間に、この「市民開発者」が仲介することによって、従来の開発で起こっていた大きな悩みの種である「意見の食い違い」が解消されたり「開発コスト」が軽減されたりする傾向にあります。DX化において、市民開発者は欠かせない人材であるといえます。

しかし、社会の需要に答えるべく職業訓練として市民開発者養成科を設置しても、肝心の受講者側からしてみれば「どんなスキルを身につけられるのか」であったり「自分の能力でもアプリを開発できるのか」であったり「どれほどの市場価値があるのか」であったりといった疑問や不安を払拭できなければ、中々その一歩を踏み出しにくいのではないかと感じています。

以上の問題意識から、実際に市民開発者養成科を修了した訓練生の中から、アンケートに回答してくださった5名の声を記事として紹介することを思いつきました。この記事が、これから市民開発者養成科での職業訓練受講、あるいは、ローコード・ノーコード開発ツール(以下、Power Platform)の学習を検討している人々の一助を呈することを願っています。

アンケートの実施

2022年5月11日から同年5月25日の期間、Microsoft Forms を用いて「ビットゼミで市民開発者養成科を修了した皆さまの体験談を教えてください」という件名で自由記述式のアンケート調査を行いました。調査といっても、訓練を受講しての感想がメインとなっています。具体的にどういうスキルが身についたのか、そして、どういう授業内容だったのかなどを参考にしていただければと思います。なお、質問項目は以下の通りです(記事の都合上、若干の編集を施しています)

  1. 職業訓練校に入るよりも以前、実務・趣味のいずれかでコンピュータ言語を扱った経験はありますか?
  2. 前職に勤めていた頃から「市民開発者」という言葉を知っていましたか?
  3. 職業訓練修了前と後において、ご自身の成長について教えてください。
  4. 過去に戻ったと仮定して、ご自身の前職で「ビットゼミで学習したことが活かせられそうだ」と感じた場面があれば(あるだけ)教えてください。
  5. ご自身の現在の職場で「訓練で学習したことが活かせられそうだ」と感じた場面があれば教えてください。
  6. 訓練生活において、コンピュータ・スキル以外で何を得ましたか?
  7. 訓練期間中に「やっておけば良かった」と思うことはありますか?
  8. 最後に、ビットゼミへの入校を考えている人々の背中を押してください。

全て読もうとすると大変なので、気になった項目までスクロールするなどし、ご参考ください。ご質問等ありましたら「お問い合わせ」にてご連絡ください。

sumida
sumida

アンケート結果

職業訓練校に入るよりも以前、実務・趣味のいずれかでコンピュータ言語を扱った経験はありますか? また、入校の動機を教えてください。

  • 「はい」と答えた人(1名)
    • 学生時代に JavaScript で簡単なゲームを作ったことはありますが、遠い記憶で使いこなせるレベルではありませんでした。
    • 入校の動機は、前職の小売業界での勤務中に膨大な販売データを目にし、データ分析に興味を持ったからです。そこで、訓練校のカリキュラムの中でデータ分析のツールである Power BI 2 が学べると知り応募しました。それまでは Power BI を触ったことがなく、グラフ化やデータの可視化は Excel で行っていました。Power BIって何かな…というところからスタートでした。
    • また、Excel の関数やマクロ 3 について学んだり、アプリを作成できるようにもなりたいという思いもありました。Excel の関数やマクロについて知っていれば、転職先での業務で役に立つアプリを作成でき、そこで活躍できるようになるかもしれないと思いました。
  • 「いいえ」と答えた人(4名)
    • オズボーン博士の発表された消える職業ランキング 4 の存在を知って以来、ただの経理事務員では明るい未来像が描けなくなったためです。かといって、税理士や公認会計士のような経理に特化した勉強をするのも魅力的な進路とは思えませんでした。「自分の職種が消えてしまうなら消してしまう側の勉強をすればよい!」という弱肉強食的な発想で入校を希望しました。
    • 今まで自分の持ってない能力や知識が得れると思ったからです。
    • VBA 5RPA 6 に興味があったからです。
    • 業務の効率化でマクロVBARPAなど聞くようになり、仕事の効率をあげるヒントを得たかったためです。仕事で使っている Microsoft Office の機能を使いこなし、時間短縮とともに、もっとわかりやすく見やすい資料を作りたかったため入校しました。

101期生はコンピュータ言語を扱ったことのない人がほとんどだったようですね。ちなみに、私もその仲間の1人でした。

sumida
sumida

前職に勤めていた頃から「市民開発者」という言葉を知っていましたか?

  • 「はい」と答えた人(0名)
  • 「いいえ」と答えた人(5名)
    • 「プロの開発者は市民ではないのか?」という疑問から、市民という単語に違和感を抱きました。
    • どんなことするのか、イメージがつきませんでした。
    • 高度な技術が必要だと思いました。
    • 「そんなオーバーな」「開発ってなに?」「知識を生かして業務効率化を図れたらいいなぁ」と思いました。
    • 「市民」からは「一般人」を、「開発者」からは「何か生み出す人」を連想したので、「何か社会のために良いものを生み出す一般人」というイメージでした。

今回は5名からしか調査結果を得られませんでしたが、全国的に馴染みのない言葉なのかは気になります。

sumida
sumida

職業訓練修了前と後において、ご自身の成長について教えてください。

  • Hさん(経理事務職)
    • “is” 思考から “as” 思考に近づいて、良い意味で肩の力が抜けた 7
    • Twitter や connpass に参入して情報収集力が高まった
    • 改善のヒントが止めどもなく湧くようになった
    • 広い視野で物事を見られるようになった
    • みんなの幸せを願うようになった
  • Mさん(事務職)
    • PCスキルも向上しましたし、たくさんの人と関わることで、新しい価値観に触れる事ができました。
    • 皆さんから刺激を受けることで、将来の選択肢が増えて前向きな気持ちになりました。
    • また、自分のしたい事を応援してくれる人がいて行動力を培うことも出来て自信がつきました。
  • 匿名希望さん①(職種不明)
    • 以前はとにかく将来が不安で仕方なかったです。今も不安ではあるものの、これがダメでも他にも道はあると思えるようになりました。
  • 匿名希望さん②(職種不明)
    • スキルは向上したと思います。前任者から作業を引き継ぐにあたり、古いやり方でやっているものをいくつかバージョンアップしたため(主にはエクセルの入力規制やピボットテーブルなどオフィス作業)、不慣れな作業もなんとか時間内に収まるよう工夫できています。
    • これからも手段としての機能の学習は続けたいです。
    • 心境や性格・考え方はそんなに変化していません。
  • Sさん(事務職系)
    • スキル面での成長
      • Word, Excel, PowerPoint, Access, VBA, Power Platform についての基礎的な操作方法を学びました。
      • 特に Excel では VLOOKUPCOUNTIFS などの関数やピポットテーブルピポットグラフなど、前職の業務の中で見かけたり、なんとなく触ったりしていたものを使えるようになりました。
      • Excel VBA も基本的な構文を学び、実務でマクロを使うための基礎ができました。
      • Power BI ではデータを様々な種類のグラフや表を表示させることができ、データを可視化する基礎を培いました。
      • Power Apps 8 ではローコードとはいえ四苦八苦しながら楽器アプリを作成しました。機能はシンプルな物にはなりましたが、作りたい物を形する経験を得ることができました。
    • 考え方の変化
      • できないことやあまり詳しくないことは、あとでやろうと先延ばしにしたり、放っておいたりしていのですが、調べたり、聞いたり、勉強したりしてできるようになればいいという考えに変わりました。
      • 同期が自分の知らない機能を共有してくれたり、分からないところはお互い教え合ったりできる環境で、一緒に学ぶ仲間がいることがモチベーションになりましたし、学習する習慣ができました。
      • どんな仕事をするにしても、勉強は必要になると思います。できないことはできるようになればいいと、前向きに学習していく姿勢は今後の自分の人生にプラスに働くのではないかと思います。

前向きな回答を頂戴しました。1人でも勉強はできますが、誰かと一緒に学ぶことでしか得られないものは確かに存在する…というのを強く感じますね。

sumida
sumida

過去に戻ったと仮定して、ご自身の前職で「ビットゼミで学習したことが活かせられそうだ」と感じた場面があれば(あるだけ)教えてください。

  • Excel はマクロを使うとメンテナンスが大変なので、関数をふんだんに使って(セルロックして)業務を効率化していましたが、Power Platform を駆使して作業効率も、レポートの見た目も良いシステムが作れます。
  • たいして使いもしないのに毎月18万円かかっていたシステムの保守料がもったいないので、Power Platform を使って「自分で作る」と宣言する。
  • パソコンスキルと論理的思考力です。もっと効率よく作業をするための技や、どうすれば、そしてどのように動くのかを理論立てて考える力は前職で役立ちそうだと感じました。
  • 人間力。どんな仕事にでも応用できるコミュニケーション能力は前職でも活かせると思いました。
  • PC作業全般に活かせそうだと思います。
  • データの統合やピボットテーブルでしょうか。オフィス製品の知識が向上したことにより、作業時間短縮になりそうです。また、Power BI の魅せる技術は、会議やプレゼンで喜ばれたかもしれません。しかし、アプリ作成技術は、アプリを活用できる範囲が限られていることなど、現状では活かせそうなことはありません。

「あの時に知っていれば」の「あの時」は今である…ということを肝に銘じておきますね。

sumida
sumida

ご自身の現在の職場で「ビットゼミで学習したことが活かせられそうだ」と感じた場面があれば教えてください

  • RPAに興味がある事業所に就職したので、既にDX化が進んでいて、学習範囲のことは既存のシステムで解決できています。
  • パソコンスキル。簡単なパソコン業務だけですが、単純作業などいかに正確に早くできるようにするために活用している。また、コミュニケーションスキルは仕事を円滑に進める為やチームワーク良く働く為に活かされている。
  • データの集計など、活かせるところがあると思います。
  • オフィス製品の知識です。また、ビットゼミで学んだことではありませんが、独自に学習したセキュリティの知識、Canvaでの文書作成、ビットゼミでできた友人に教えてもらった動画編集ソフト、写真加工の方法などが役に立っています。

市民開発者養成科で学習したこと以外にも、クラスメイトから得られる知識や学習の機会によっての成長も期待できるようですね。

sumida
sumida

訓練生活において、コンピュータ・スキル以外で何を得ましたか?

  • 英語を勉強したいという気持ち
  • 美しい言葉を使おうという気持ち
  • 人脈
  • 正しいスクワットの姿勢
  • これまで挑戦したことのない経験を沢山する事ができました。
  • たくさんの人と関わることでその人が持っている知識を教えてもらう事ができましたし、その人たちと学習することで得た知識もありました。
  • ビットゼミでしか会えなかった人たちと出会えた事です。幅広い価値観を持った人たちとの生活は刺激的でした
  • 遊び心。生き方や考え方に基づく働き方はそう簡単に変化するものではないと思っています。
  • 自己開示することで皆さんのお役に立ちたいと発表した内容から、自分でもそこまで思っていなかったようなセンシティブな問題が起こり、受講後もしばらく引きずってしまいました。ビットゼミに入るまでは育児と仕事だけの生活だったので、皆さんの豊かな感性に触れ、自分のために心のままに行動できたことは、いい思い出となっています。

101期は休憩時間に教室の隅でスクワットをするという奇特な光景がありました。珍百景ですね(※参加は任意です)

sumida
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訓練期間中に「やっておけば良かった」と思うことはありますか?

  • プログラミングコードの勉強(コードをかじってないから、ローコードのありがたみが分からない)
  • もっと色んなことを考えて提案して動けば良かったと思いました。自由な時間があり応援してくれる人たちがいる中でもっと自分の考えを発信して、周りの人達と意見交換できたら更に成長できたのではと思っています。
  • VBAとRPAをもっと深く学ぶこと
  • 特にありません。やりたいことは常にたくさんあり、できることは、その場でやりました。できていない内容は、生活スタイルや時間・体力などの問題からできないことだろうとあきらめています。

充実した5ヶ月間でしたが「学び足りない」と思えるほど、毎日が楽しかったようですね。

sumida
sumida

最後に、ビットゼミへの入校を考えている人々の背中を押してください。

  • 規律の緩さが気になる時もありましたが、過去に通った訓練校と比較して良かったのは、①吉田豪っていう巷じゃちょいと有名なおじさんと出会えること、②IT関係以外にも貸出図書が豊富、③放課後も教室が自習室として開放される点です。
  • 悩んでいるならまずは、入って悩みましょう。ビットゼミに入れば、きっと糸口が見つかるはずです。それを助けてくれる仲間や先生たちが待ってます。そして、学びに終わりはありません。一緒に学んでいきましょう!
  • PCスキルの向上を目指して入校しましたが、それはもちろんのこと、コミュニケーション授業が何より勉強になったと思います。優しい先生達に見守られながら、自分を振り返る良い機会になると思います。
  • 楽しい先生がいます。色んな人と出会えます。社会人になって利害関係に捕らわれず語りあえる仲間と出会える場所はそうそうありません。社会人の基本は人間力です。コミュニケーションが成り立ち、初めて仕事は円滑化します。パソコン知識は意欲があればどこでも学べますが、これを鍛えようと大きく銘打っているところはそうそうありません。あとは本人の学ぶ気持ち次第。どんなことでも吸収して、頑張ってください。
  • 授業内容に分からない事があれば聞きやすい環境です。Word や Excel、マクロなど実務で使うPCスキルの基礎を培えます。同期となる人は様々な業界や業種から集い、持っているスキルも考え方も多様だと思います。同期から学ぶことや刺激を受けることがきっとあると思います。
  • Power Apps は試行錯誤するかと思いますが、おそらく受講生の大半は同じように四苦八苦してお互い情報共有しながら、教え合いながらアプリを作成していくと思います。作りたいものを形にできるという経験を是非してみてください。

ローコード開発といえども、一朝一夕で身につけられる技術ではない…というのは周知されるべきかもしれません。しかし、クラスメイトや講師と助け合いながら課題を克服できる環境のようです。

sumida
sumida
sumida
sumida

また、コミュニケーションの授業では「抵抗がある」といった声が聞こえていましたが、最後まで受講して初めてその意味が理解できるようなスゴい授業でした。自分を客観視する機会は中々ないはずなので、自身、有意義な時間を過ごすことができたと振り返ります。

修了生の皆さま、長時間に渡るご回答ありがとうございました。なお、本稿における記載内容の責任は全て筆者が負うものであり、執筆に協力していただいた関係者が負うものではありません。

sumida
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隅田智尋

  1. ユーザーとは開発を依頼する側のこと。ベンダーとは開発を行う側のこと
  2. Microsoftが開発した Business Intelligence ツールを指す。BIツールとは(簡単にいえば)データの接続、モデル化、ビジュアル化を行い、データを他者と共有することができるものを指す
  3. 複数の操作をまとめ、必要に応じて呼び出せるようにする機能。特に Excel の自動化で使われることが多く、多種多様な作業を自動化できる。
  4. 要約サイト:https://www.axismag.jp/posts/2015/03/53502.html、原典:https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
  5. Visual Basic for Application の略称。Excel や Access などのOffice 製品で利用できるプログラミング言語の一種
  6. Robotic Process Automation の略称。日本RPA協会に書いてあることをまとめると、これまでは人間だけが対応できると考えられていた作業をコンピュータでルール化したり、人工知能や機械学習等を含む認知技術を活用して代行・代替したりする取り組みを指す
  7. “is” 思考と “as” 思考はビットゼミでの授業で使用された通語(= jargon)です。”is” 思考が職人的発想であることに対し “as” 思考は柔軟な発想を指しています。Hさんは、何事にも一生懸命に取り組む性格でしたが、いい意味での「いい加減さ」を身に着けられたのでしょうね(たぶん)
  8. Microsoftが開発したローコード開発ツールを指す。ボタン操作と僅かなコーディングによって業務アプリを始め、楽器アプリ、知育・教育アプリ、ゲームなど、工夫次第で様々なアプリケーションを開発できる
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